AFTERWORDおとなの方へ
この絵本は、
「ゼロって、なんにもないもの?」
という問いから生まれました。
私たちはゼロを、
「なにもない」「失った」「足りない」「空っぽ」
と とらえがちです。
でも、本当にそうでしょうか。
数学では、ゼロはすべての数の中心にある、特別な存在です。
X軸、Y軸、Z軸。
どんな次元の軸であっても、それが交わる場所は、ゼロ。
ゼロは「なにもない点」ではなく、どこへでも行ける、スタート地点なのです。無限の方向へ広がる、可能性が最大化した場所。
そして量子の世界では、真空でさえエネルギーに満ちていることが分かっています。
完全な「無」は、どこにも存在しない。
なにもないように見える場所は、静けさの中に絶え間ない動きを秘めた、とても豊かな場所なのです。
この絵本で伝えたいことは、ひとつです。
「ゼロ=なにもない」ではない。
ゼロは、すべてが生まれる“はじまり”のかたちだということ。
子どもが自分を「ゼロだ」と感じたとき、
「なにもない」のではなく
「なんにでもなれる」のだと、信じられるように。
そして、かつて子どもだった私たちも、同じように。
そんな願いをこめて、
ゼロくんと てをつなぐ物語を描きました。
ゼロから、無限へ。
きっと、あなたのなかにも、
ゼロのちからが眠っています。
A LITTLE MOREもうすこしだけ、ゼロの話
「なにもない」は、実験で測られている
あとがきで触れた真空のエネルギーは、思弁ではありません。実際に測ることができます。
なにもない空間に、金属の板を二枚、髪の毛の百分の一ほどの隙間をあけて向かい合わせる。すると板は、たがいに引き寄せられます。押しているのは、空っぽのはずの空間のほうです。1948年に予言され、1990年代に精度よく測定された、カシミール効果と呼ばれる現象です。
なにもない場所は、じっとしていません。絶えず生まれては消える、ゆらぎに満ちています。
なにもない場所から、すべての数がつくられる
集合論では、「なにも入っていない箱」ひとつから出発して、すべての自然数を組み立てることができます。
まず、からっぽの箱をゼロと呼びます。
つぎに、それまでに作った箱をぜんぶ入れた箱をつくる。いま手元にあるのはゼロだけなので、中身はゼロひとつ。だから1。
おなじルールを、もう一度。それまでの箱をぜんぶ入れる。中身はゼロと1で、ふたつ。だから2。
こうして数は、いくらでも増えていきます。最初にあったのは、からっぽの箱ひとつだけなのに。
ゼロと「空(くう)」は、おなじ語からきている
インドの数学者たちがゼロにもっともよく使ったのは、サンスクリット語の「シューニャ(śūnya)」でした。「からっぽ」という意味の、ふつうの言葉です。
この śūnya が仏典では「空(くう)」と訳され、そこから派生した抽象名詞「シューニャター(śūnyatā)」が「空性」と訳されました。
数の話とこころの話が、同じ語から枝分かれしている。どちらがどちらを生んだのかは、専門家のあいだでも決着していない問題です。それ以上のことは、私には言えません。
ただ、「からっぽ」を指すひとつの言葉が、かたやすべての数の出発点になり、かたや「決まったかたちを持たない」という考え方になった——その符合は、この絵本をつくるあいだ、ずっと頭の隅にありました。
きみの なかにも、
まだ かたちになっていない
たくさんの ひかりがある。
——本文より
THE AUTHORはたの あきひと
イラストは画像生成AIを用いて制作しています。
物語・構成・演出・キャラクター設計およびすべての表現上の判断は著者によるものです。
THE SERIESひとつずつ、裏返していく
ゼロは、なにもない。
そう思って生きるのと、ゼロにはすべてがあると思って生きるのとでは、おなじ一日でも、見えるものが違ってきます。
考え方がひとつ変わるだけで、人生は変わる。おおげさに聞こえるかもしれませんが、私はそう思っています。
だからこの絵本を書きました。
子どもに向けて。そして、かつて子どもだった人にも。
あたりまえだと思っていることを、ひとつずつ、裏返してみる。そういう本を、これからも作っていくつもりです。
たとえば、割り算。
ケーキを半分こする。1÷2=0.5。
自分の分は、たしかに0.5です。
では、のこりの0.5は、どこへ行ったのでしょう。
消えてはいません。
となりのお皿の上に、ちゃんとあります。
式のなかから、見えなくなっただけで。
つぎの一冊は、そんな話になりそうです。
FREEふたつのプレゼント
絵本を読んだあと、親子で手を動かせるものを2つ用意しました。
どちらも無料です。
ぬりえブック
ゼロくんも、イチくんも、2ちゃんも。
たのしく色をぬって、あそんでみよう。
さいごの1枚は、ゼロくんの おなかの中に
すきなものを かいてみるページです。
A4/6ページ/PDF
問いかけシート
読み終えたあと、親子で話してみるための6つの問い。
「ゼロくんは、どこで気持ちが変わったのかな?」
正解のない問いばかりです。お子さんが答えたことを、
そのまま書き留められるようにしてあります。
A4/1枚/PDF
ご家庭でも、園や施設でも、印刷して自由にお使いください。
ぬりえができあがったら、zerokun@sorairu.co.jp まで見せてください。
とてもうれしいです。ご了承いただけた作品は、このページでご紹介させてください。
園や施設の方へ向けた読み聞かせのてびきと、献本のご案内も、
あわせてこのページからお届けする予定です。
ゼロくん